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よと同じすぢには物し給へど、覺え殊に昔よりやんごとなく聞え給ふを御心などうつりなばはしたなくもあべいかなと、年頃の御もてなしなどは立ち並ぶ方なくさすがにならひて人におしけたれむことなど人知れずおぼし歎かる。かきたえ名殘なきさまにはもてなし給はずともいと物はかなきさまにて見馴れ給へる年頃のむつびあなづらはしき方にこそはあらめなど樣々に思ひ亂れ給ふに、よろしき事こそうちゑじなどにくからず聞え給へ、まめやかにつらしとおぼせば色にも出し給はず。端近うながめがちに、內ずみしげくなり、役とは御文を書き給へばげに人の事は空しかるまじきなめり。氣色をだにかすめ給へかしとうとましくのみ思ひ聞え給ふ。冬つ方かんわざなどもとまりてさうざうしきに徒然とおぼしあまりて五の宮に例の近づき參り給ふ。雪うち散りて艷なるたそがれ時に、なつかしき程になれたる御ぞどもをいよいよたきしめ給ひて心ことにけさうじ暮し給へれば、いとゞ心弱からむ人はいかゞと見えたり。さすがにまかり申しはた聞え給ふ。「女五の宮のなやましくし給ふなるをとぶらひ聞えになむ」とてつひ居給へれば見もやり給はず。若君ともてあそび紛はしおはするそばめのたゞならぬを「怪しく御氣色の變れる頃かな。罪もなしや。しほやき衣のあまりめなれみだてなくおぼさるゝにや」とてとだえおくを「又いかゞ」など聞え給へば「なれ行くこそげにうき事多かりけれ」とばかりにてうち背きて臥し給へるは見捨てゝ出で給ふ道物うけれど宮に御せうそこ聞え給ひてければ出で給ひぬ。かゝりける事もありける世をうらなくて過ぐしけるよと思ひ續けて臥し給へり。にびたる御ぞどもなれど色あひ重