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をとり立てゝ思へる、いづれも時々につけて見給ふに目うつりてえこそ花鳥の色をもねをも辨へ侍らね。せばき垣根の內なりともその折々の心見しるばかり春の花の木をも植ゑわたし秋の草をも堀りうつしていたづらなる野邊の蟲をもすませて人に御覽ぜさせむと思ひ給ふるをいづかたにか御心よせ侍るべからむ」と聞え給ふにいと聞えにくき事とおぼせどむげに絕えて御いらへ聞え給はざらむもうたてあれば、「ましていかゞ思ひわき侍らむ。げにいつとなきなかにあやしと聞きし夕こそはかなう消え給ひにし露のよすがにも思ひ給へられぬべけれ」としどけなげにのたまひけつも、いとらうたげなるにえ忍び給はで、

 「君もさはあはれをかはせ人知れず我身にしむる秋のゆふ風。しのび難き折々も侍りしが」と聞え給ふにいづこの御いらへかはあらむ。心得ずとおぼしたる御氣色なり。このついでに、え籠め給はで恨み聞え給ふ事どもあるべし。今少しひが事もし給ひつべけれどもいとうたてとおぼいたるもことわりに我が御心も若々しうけしからずとおぼしかへしてうち歎き給へるさまの物深うなまめかしきも心づきなうぞおぼしなりぬる。やはらづゝひき入り給ひぬる氣色なれば「あさましうも疎ませ給ひぬるかな。誠に心深き人は、かくこそあらざなれ。よし今よりにくませ給ふなよ。つらからむ」とて渡り給ひぬ。うちしめりたる御にほひとまりたるさへうとましくおぼさる。人々御格子など參りて「この御しとねのうつりがいひしらぬものかな。いかでかく取り集め柳の枝にさかせたる御有樣ならむ。ゆゝし」と聞えあへり。對にわたり給ひてとみにも入り給はずいたうながめて端近うふし給へり。とうろ遠く