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し聞え給ふ。山里のつれづれましていかにとおぼしやるはいとほしけれど明暮おぼすさまにかしづきつゝ見給ふは物あひたる心地し給ふらむ、いかにぞや、人の思ふべききずなきことはこのわたりに出でおはせでと口をしくおぼさる。しばしは人々もとめて泣きなどし給ひしかど大方心安くをかしぎ心ざまなれば上にいとよくつきむつび聞え給へればいみじう美くしき物得たりと覺しけり。ことごとなく抱きあつかひ悅び聞え給ひて乳母もおのづから近う仕うまつりなれにけり。又やんごとなき人の、ちある添へて參り給ふ。御袴着は何ばかりわざとおぼし急ぐ事はなけれど氣色ことなり。御しつらひひゝな遊の心地してをかしう見ゆ。參り給へるまらうどゞも唯明暮のけぢめしなければあながちに目もたゝざりき。唯姬君のたすきひきゆひ給へる胸つきぞ美しげさそひて見え給へる。大井にはつきせず戀しきにも、身のをこたりを歎きそへたり。さこそいひしが、尼君もいとゞ淚もろなれどかくもてなしかしづかれ給ふを聞くは嬉しかりけり。何事をかなかなかとぶらひ聞え給はむ、唯御方の人々に、乳母より初めて世になき色あひを思ひ急ぎてぞ送り聞え給ひける。待遠ならむもいとゞさればよと思はむにいとほしければ年の內に忍びて渡り給へり。いとゞ淋しきすまひに明暮のかしづきぐさをさへ離れ聞えて思ふらむことの心苦しければ御文なども絕間なく遣す。女君も今は殊にゑじ聞え給はず美しき人に罪免し聞え給へり。年もかへりぬ。うらゝかなる空に思ふ事なき御有樣はいとゞめでたく磨き改めたる御よそひに參り集ひ給ふめる人のおとなしき程のは七日の御悅などし給ふ。ひきつれ給へり。若やかなるは何ともなく心