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明暮の物おもはしさつれづれをも打ち語らひて慰めならひつるにいとゞたつぎなき事をさへとりそへいみじう覺ゆべきこと」と君も泣く。めのとも「さるべきにや覺えぬさまにて見奉りそめて年比の御心ばへの忘れ難う戀しう覺え給ふべきをうちたえ聞ゆることはよも侍らじ。終にはと賴みながら暫しにてもよそよそに思の外のまじらひし侍らむが、安からずも侍るべきかな」など、うち泣きつゝすぐす程に十二月にもなりぬ。雪霰がちに心細さまさりて、怪しくさまざまに物思ふべかりける身かなとうち歎きて常よりもこの君を撫でつくろひつゝ居たり。雪かきくらし降り積るあしたきし方行くさきの事殘らず思ひつゞけて例はことにはしぢかなるいでゐなどもせぬを、みぎはの氷など見やりて白ききぬどものなよゝかなるあまた着てながめたるやうだい頭つきうしろでなど、かぎりなき人と聞ゆともかうこそおはすらめと見ゆ。落つる淚をかいはらひて「かやうならむ日ましていかにおぼつかなからむ」とらうたげにうちなげきて、

 「雲ふかき深山のみちははれずともなほふみかよへ跡たえずして」とのたまへばめのとうち泣きて、

 「ゆきまなきよしのゝ山を尋ねてもこゝろの通ふ跡たえめやは」といひ慰む。この雪少し解けて渡り給へり。例は待ち聞ゆるにさならむと思ふ事により胸うちつぶれてひとやりならず覺ゆ。我が心にこそあらめ、いなび聞えむを、しひてやは、あぢきなと覺ゆれどかろかろしきやうなりとせめて思ひかへす。いと美しげにて前に居給へるを見給ふにおろかには思