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たまひ出づれば、聞え出で給ひてさ思ふ心なむありしなどはしあらはし給はず。おとゞもかゝる御氣色聞き顏にはあらで、只いかにおぼしたるとゆかしさに、とかうかの御事のたまひ出づるにあはれなる御氣色のあさはかならず見ゆればいといとほしくおぼす。めでたしとおぼししみにける御かたち、いかやうなるをかしさにかとゆかしう思ひ聞え給へど、更にえ見奉り給はぬをねたうおもほす。いとおもりかにて夢にもいはけたる御ふるまひあらばこそおのづからほの見え給ふついでもあらめ、心にくき御けはひのみ深さまされば、見奉り給ふまゝに、いとあらましと思ひ聞え給へり。かくすきまなくて二所さぶらひ給へば兵部卿の宮すがすがともえおもほしたらず。帝おとなび給ひなばさりともえおもほし捨てじとぞまち過ぐし給ふ。

二所の御おぼえどもとりどりにいどみ給へり。うへはよろづの事にすぐれて、繪を興あるものにおぼしたり。立てゝ好ませ給へばにや、になく書かせ給ふ。齋宮の女御いとをかしう書かせ給ひければ、これに御心うつりて渡らせ給ひつゝかき通はさせ給ふ。殿上の若き人々もこの事まねぶをば御心とゞめてをかしきものにおもほしたれば、ましてをかしげなる人の心ばへあるさまにまほならず書きすさびなまめかしうそひふしてとかく筆うちやすらひ給へるさま、らうたげさに御心しみて、いとしげう渡らせ給ひてありしよりけに御思ひまされるを、權中納言聞き給ひて飽くまでかどかどしく今めき給へる御心にて、われ人に劣りなむやとおぼし勵みて、すぐれたる上手どもを召し取りていみじういましめてまたなきさまなる繪どもをになぎ紙どもに書き集めさせ給ふ。物語繪こそ心ばへに見えて