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くはしう仕うまつるべくのたまひてうちに參り給ひぬ。うけばりたる親ざまには聞しめされじと院を包み聞え給ひて御とぶらひばかりと見せ給へり。よき女房などはもとより多かる宮なれば里がちなりしも參り集ひていとになくけはひあらまほしく、あはれおはせましかばいかにかひありておぼしいたづかましと、昔の御心ざまおぼし出づるに、大方の世につけては惜しうあたらしかりし人の御有樣ぞや。さこそえあらぬものなりければよしありし方は猶すぐれて物の折ごとに思ひ出で聞え給ふ。中宮もうちにぞおはしましける。うへは珍しき人參り給ふと聞しめしければ、いとうつくしう御心づかひして坐します。程よりはいみじうざれおとなび給へり。宮には「かく耻しき人參り給ふを、御心づかひして見え奉らせ給へ」と聞え給ひけり。人しれずおとなは耻しうやあらむとおぼしけるをいたく夜更けて參うのぼり給へり。いとつゝましげにおほどかにてさゝやかにあえかなるけはひのしたまへれば、いとをかしとおぼしけり。弘徽殿には御覽じつけたれば睦ましうあはれに心安くおもほし、これは人ざまもいたうしめり耻しげにおとゞの御もてなしもやんごとなくよそほしければあなづりにくゝ思されて、御とのゐなどはひとしくし給へどうちとけたる御わらは遊に晝など渡らせ給ふことはあなたがちにおはします。權中納言は思ふ心ありて聞え給ひけるに、かく參り給ひて御むすめにきしろふさまにて侍ひ給ふをかたがたに安からずおぼすべし。院にはかの櫛の箱の御かへり御覽ぜしにつけても御心離れ難かりけり。その頃おとゞの參り給へるに御物語こまやかなり。事のついでに齋宮のくだり給ひしことさきざきもの