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にやつれたる上の見るめよりはみやびかに見ゆるを、昔物語にだうこぼちたる人もありけるをおぼしあはするに、同じさまにて年ふりにけるもあはれなり。ひたぶるに物づゝみしたるけはひのさすがにあてやかなるも心にくゝおぼされて、さるかたにて忘れじと心苦しく思ひしを、年比さまざまの物思ひにほれぼれしくて隔てつる程つらしと思はれつらむといとほしくおぼす。かの花散里もあざやかに今めかしうなどは花やぎ給はぬ所にて御目うつしこよなからぬにとが多う隱れにけり。祭ごけいなどのほど御いそぎどもにことつけて人の奉りたるものゝいろいろに多かるを、さるべきかぎり御心加へ給ふ。中にもこの宮にはこまやかにおぼしよりてむつましき人々におほせごと給ひ、しもべどもなど遣して蓬拂はせめぐりの見苦しきに板垣といふものうち堅めつくろはせ給ふ。かう尋ね出で給へりと聞き傅へむにつけても我が御ためめんぼくなければ渡り給ふことなし。御文いと細やかにかき給ひて「二條院いと近き所を造らせ給ふをそこになむ渡し奉るべき。よろしきわらはべなど求めて侍はせ給へ」など人々の上までおぼしやりつゝとぶらひ聞え給へば、かくあやしき蓬のもとには置き所なきまで女ばらも空を仰きてなむそなたに向きて喜び聞えける。なげの御すさびにてもおしなべたるよのつねの人をば目とゞめ見立て給はず。世に少しこれはとおもほえ、心にとまるふしあるあたりを尋ねより給ふものと人の知りたるに、かくひきたがへ何事もなのめにだにあらぬ御有樣を物めかし出で給ふはいかなりける御心にかありけむ、これも昔の契なめりかし。今はかぎりとあなづりはてゝさまざまにきほひ散りあがれし