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がしのみかどを閉ぢ籠めたるぞ賴もしけれど、崩れがちなるめぐりの垣を馬牛などの蹈みならしたる路にて、春夏になればはなちかふあげまきの心さへぞめざましき。はつき野分荒かりし年廊どもゝ倒れ伏ししもの屋どものはかなきいたぶきなりしなどは骨のみ僅に殘りて立ちとまるげすだになし。煙絕えてあはれにいみじき事多かり。ぬすびとなどいふひたぶる心あるものも思ひやりの寂しければにや、この宮をばふようのものにふみすぎて寄り來ざりければかくいみじきのらやぶなれどもさすがに寢殿の內ばかりはありし御しつらひ變らず、つやゝかにかいはきなどする人もなし。ちりは積れどもまぎるゝことなきうるはしき御すまひにてあかし暮し給ふ。はかなき古歌物語などやうのすさびごとにてこそつれづれをも紛らはし、かゝるすまひをも思ひ慰むるわざなめれ。さやうの事にも心遲く物し給ふ。わざとこのましからねどおのづから又急ぐことなき程は同じ心なる文通はしなどもうちしてこそ若き人は木草につけても心を慰め給ふべけれど、親のもてかしづき給ひし御心おきてのまゝに世の中をつゝましきものにおぼして稀にも事通ひ給ふべき御あたりをも更に馴れ給はず。ふるめきたるみづしあけて、からもり、はこやのとじ、かぐや姬の物語の繪に書きたるをぞ時々のまさぐりものにしたまふ。古歌とてもをかしきやうにえり出で題をもよみびとをもあらはし心得たるこそ見所もありけれ。うるはしきかんやがみ、みちのくにがみなどのふくだめるにふることゞもの目馴れたるなどはいとすさまじげなるを、せめてながめ給ふ折々はひきひろげ給ふ。今のよの人のすめる經うち讀み行ひなどいふことはいと耻