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後み露にても心に違ふ事はなくもがなと思へりし程に、進める方と思ひしかどとかくに靡き來てなよびゆき、見にくきかたちをもこの人に見や疎まれむとわりなく思ひつくろひ、疎き人に見えばおもてぶせにや思はむと憚り耻ぢて、みさをにもてつけて見馴るゝまゝに心もけしうはあらず侍りしかど、唯この憎き方一つなむ心をさめず侍りし。そのかみ思ひ侍りしやう、かうあながちに從ひおぢたる人なめり、いかで懲るばかりのわざしておどしてこの方も少しよろしくもなりさがなさもやめむと思ひて、誠にうしなども思ひて絕えぬべき氣色ならば、かばかり我に隨ふ心ならば思ひ懲りなむと思ひ給へて、殊更になさけなくつれなきさまを見せて、例の腹立ち怨ずるに、かくおぞましくばいみじき契深くとも絕えて又見じ、かぎりと思はゞかくわりなき物疑ひはせよ、行くさき長く見えむと思はゞつらき事ありとも念じてなのめに思ひなりてかゝる心だに失せなば、いと哀となむ思ふべき、人なみなみにもなり少しおとなびむに添へて又並ぶ人なくなむあるべきなど、賢く敎へたつるかなと思ひ給へて、我れたけくいひそし侍るに、少しうち笑ひて、萬にみだてなく物げなき程をみすぐして人數なる世もやと待つ方はいと長閑に思ひなされて心やましくもあらず、つらき心を忍びて思ひなほらむ折を見つけむと年月を重ねむあいなだのみはいと苦しくなむあるべければ、かたみに背きぬべききざみになむあると、妬げにいふ時に腹だゝしくなりて憎げなる事どもを言ひ勵し侍るに、女もえ治めぬすぢにておよびひとつを引き寄せてくひて侍りしを、おどろおどろしくかこちて、かゝる疵さへつきぬればいよいろ交らひをすべきにも