Page:Kokubun taikan 01.pdf/28

このページは校正済みです

から治まりもすべし。あまりむげにうちゆるべ見放ちたるも心安くらうたきやうなれどおのづから輕き方にぞ覺え侍るかし。繫がぬ船の浮きたる例も實にあやなし。さは侍らぬか」といへば中將うなづく。「さしあたりてをかしとも哀とも心にいらむ人の、たのもしげなき疑あらむこそ大事なるべけれ。我が心あやまちなくて見すぐさば、さし直してもなどか見ざらむと覺えたれど、それさしもあらじ。ともかくも違ふべきふしあらむを長閑やかに見忍ばむより外にます事あるまじかりけり」といひて、我が妹の姬君はこの定にかなひ給へりとおもへば、君のうちねぶりて詞まぜ給はぬをさうざうしく心やましと思ふ。馬のかみ物さだめの博士になりてひゞらぎ居たり。中將はこのことわり聞きはてむと心に入れてあへしらひ居給へり。「萬の事によそへておぼせ。木の道のたくみの萬の物を心に任せて作り出すも、臨時のもてあそび物のその物と跡も定まらぬはそばつきざれば見たるも質にかうもしつべかりけりと、時につけつゝさまをかへて今めかしきに目うつりてをかしきもあり。大事として、誠に麗はしき人の調度のかざりとする、定まれるやうあるものを難なくし出づる事なむ猶誠の物の上手はさまことに見えわかれ侍る。又繪所に上手多かれど墨がきに選ばれて次々に更に劣り勝るけぢめふとしも見えわかれず。かゝれど人の見及ばぬ蓬萊の山、荒海のいかれるいをのすがた、唐國の烈しき獸のかたち、目に見えぬ鬼の顏などのおどろおどろしく作りたる物は、心に任せて一きは人の目を驚かしてじちには似ざらめどさてありぬべし。よのつねの山のたゝずまひ、水のながれ、目に近き人の家居有樣、實にと見え懷かしくやはら