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の物語などせさせて聞しめす。若かやかに氣色あるさぶらひの人なりけり。かくあはれなる御住まひなれば、かやうの人もおのづから物遠からでほの見奉る御さまかたちをいみじうめでたしと淚落しけり。御かへり書き給ふ言の葉思ひやるべし。「かく世を離るべき身と思ひ給へらましかばおなじうはしたひ聞えましものをなどなむ。つれづれに心ぼそきまゝに、

  伊勢人の浪のうへ漕ぐ小舟にもうきめはかれでのらましものを。

  あまがつむなげきの中にしほたれていつまで須磨の浦とながめむ。聞えさせむことのいつとも侍らぬこそ盡きせぬ心地し侍れ」などぞありける。かやうに何處にも覺束なからず聞えかはし給ふ。花散里も悲しとおぼしけるまゝにかき集め給ひける御心々見給ふに、をかしきもめなれぬ心地していづれもうち見つゝ慰め給ひ、かつは物思ひのもよほしぐさなめり。

 「荒れまさる軒のしのぶをながめつゝしげくも露のかゝる袖かな」とあるを、げに葎より外の後見もなきさまにておはすらむとおぼしやりて、長雨についぢ所々崩れてなど聞き給へば、京のけいしの許に仰せつかはして、近き國々の御莊の者などもよほさせて仕う奉るベきよしのたまはす。

かんの君は人わらへにいみじうおぼしくづほるゝをおとゞいと悲しうし給ふ君にてせちに宮にも申し內にも奏し給ひければ、限ある女御みやす所にもおはせずおほやけざまの宮仕とおぼしなせり。又かのにくかりし故こそいかめしきことも出でこし