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侍ひ給ふめれど、いとほしさにいかでさる方にても人に劣らぬさまにもてなし聞えむ。さばかりねたげなりし人の見る所もありなどこそは思ひ侍りつれど、强ひて我心の入る方に靡き給ふにこそは侍らめ。齋院の御事はましてさもあらむ。何事につけてもおほやけの御方に後やすからず見ゆるは、春宮の御世心よせ異なる人なればことわりになむあめる」とすくずくしうのたまひ續くるにさすがにいとほしう、など聞えつる事ぞとおぼさるれば「さばれしばしこの事もらし侍らじ。內にも奏せさせ給ふな。かくのごと罪侍りともおぼしすつまじきをたのみにて、あまえて侍るなるべし。內々に制しのたまはむに聞き侍らずは。その罪にはみづからあたり侍らむ」など聞えなほし給へど殊に御氣色もなほらず。かく一所におはしてひまもなきにつゝむ所なうさて入り物せらるらむは、殊に輕めろうぜらるゝにこそはとおぼしなすにいとゞいみじうめざましく、この序にさるべき事どもかまへ出でむによきたよりなりとおぼしめぐらすべし。


花散里

人しれぬ御心づからの物思はしさはいつとなきことなめれど、かく大方の世につけてさへ煩はしうおぼし亂るゝことのみまされば、物心ぼそく世の中なべて厭はしうおぼしならるゝにさすがなる事多かり。麗景殿と聞えしは宮たちもおはせず、院隱れさせ給ひて後いよ