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へおぼさる。物心細くなぞや世にふればうさこそまされとおぼし立つには、この女君のいとらうたげにてあはれにうち賴み聞え給へるを振り捨てむといとかたし。宮もその名殘例にもおはしまさず、かうことさらめきて籠り居音づれ給はぬを命婦などはいとほしがり聞ゆ。宮も春宮の御ためをおぼすには御心置き給はむこといとほしく世をあぢきなきものに思ひなり給はゞひたみちにおぼし立つこともやと、さすがに苦しうおぼさるべし。かゝること絕えずばいとゞしき世にうき名さへもり出でなむ、大きさきのあるまじきことにのたまふなる位をも去りなむと、やうやうおぼしなる。院のおぼしのたまはせしさまのなのめならざりしをおぼし出づるにも、萬の事ありしにもあらず變り行く世にこそあめれ、戚夫人の見けむめのやうにこそあらずとも、必人笑へなることはありぬべき身にこそあめれなど、疎ましう過ぐし難うおぼさるれば、背きなむ事をおぼし取るに、春宮見奉らでおもかはりせむことあはれにおぼさるれば忍びやかにて參り給へり。大將の君はさらぬ事だにおぼし寄らぬ事なく仕うまつり給ふを、御心地惱しきにことづけて御送にも參り給はず。大方の御とぶらひは同じやうなれど「むげにおぼしくしにける」と心しるどちはいとほしがり聞ゆ。宮はいみじう美しうおとなび給ひて珍しう嬉しとおぼして、むつれきこえ給ふを悲しと見奉り給ふにもおぼし立つすぢはいと難げなれどうちわたりを見給ふにつけても世の有樣あはれにはかなく移り變ることのみ多かり。大きさきの御心もいと煩はしくて出で入り給ふにもはしたなく事に觸れて苦しければ、宮の御ためにも危くゆゝしう萬につけておぼしみだれて、御覽ぜで