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などけうじ仕うまつり給ふさまもそこらの御子たちの御中にすぐれ給へるをことわりながらいとあはれに世の人も見奉る。藤の御ぞにやつれ給へるにつけても限なく淸らに心苦しげなり。こぞ今年とうちつゞきかゝることを見給ふに世もいとあぢきなうおぼさるれば、かゝる序にもまづおぼし立たるゝことはあれど又樣々の御ほだしおほかり。御なゝなぬかまでは女御みやす所たち皆院に集ひ給へりつるを、過ぎぬればちりぢりにまかでたまふ。十二月の二十日なれば大方の世の中とぢむる空の氣色につけてもまして晴るゝ世なき中宮の御心のうちなり。おほきさきの御心をも知り給へれば心に任せ給へらむ世のはしたなく住み憂からむをおぼすよりも、馴れ聞え給へる年比の御有樣を思ひ出で聞え給はぬ時のまなきに、かくてもおはしますまじう皆ほかほかへと出で給ふ程に、悲しき事かぎりなし。宮は三條の宮に渡り給ふ。御むかへに兵部卿の宮參り給へり。雪うち散り風烈しうて院の內やうやう人めかれゆきてしめやかなるに、大將殿こなたに參り給ひて舊き御物語きこえ給ふ。おまへの五葉の雪にしをれて下枝枯れたるを見給ひて、みこ、

 「かげひろみたのみし松や枯れにけむ下葉散りゆく年のくれかな」何ばかりのことにもあらぬに折から物あはれにて、大將の御袖いたうぬれぬ。池のひまなうこほれるに、

 「さえわたる池の鏡のさやけきに見なれしかげを見ぬぞかなしき」とおぼすまゝにあまり若々しうぞあるや。王命婦、

 「年暮れて岩井の水もこほりとぢ見し人かげのあせも行くかな」そのついでにいと多か