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とゆゝしきわざよ」とて萬にこしらへ聞え給へど、誠にいとつらしと思ひ給ひて露の御いらへもしたまはず。「よしよし更にみえ奉らじ。いと耻し」などゑじ給ひて御硯あけて見給へど物もなければわかの御心ありさまやとらうたく見奉り給ひて日一日入り居て慰め聞え給へど解けがたき御氣色いとゞらうたげなり。その夜さりゐのこのもちひ參らせたり。かゝる思の程なればことごとしきさまにはあらでこなたばかりにをかしげなるひわりごなどばかりをいろいろにて參れるを見給ひて君、みなみの方に出で給ひて惟光を召して「このもちひかう數々に所せきさまにはあらであすの暮に參らせよ。今日はいまいましき日なりけり」とうちほゝゑみてのたまふ御氣色を心ときものにてふと思ひよりぬ。惟光確にもうけたまはらで「げにあいぎやうの始はひえりして聞しめすべきことにこそ。さてもねのこはいくつか仕う奉らすべう侍らむ」とまめ立ちて申せば、「三つか一つかにてもあらむかし」とのたまふに心得はてゝ立ちぬ。物なれのさまやと君はおぼす。人にもいはで手づからといふばかり里にてぞ作り居たりける。君はこしらへわび給ひて今はじめて盜みもて來たらむ人の心地するもいとをかしくて、年頃哀と思ひ聞えつるはかたはしにもあらざりけり。人の心こそうたてあるものはあれ、今は一夜も隔てむことのわりなかるべきことゝおぼさる。のたまひしもちひ忍びていたう夜ふかしてもて參れり。少納言はおとなしくて耻しうや思さむと思ひやり深く心しらひて、むすめの辨といふを呼び出でゝ「これ忍びてまゐらせ給へ」とてかうごの箱を一つさし入れたり。「確に御まくらがみに參らすべき祝のものにはべる。あなかしこあ