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かへさせ給ふ。かうぶりし給ひてみやす所にまかで給ひて御ぞ奉りかへておりて拜し奉り給ふさまに皆人淚落し給ふ。帝はたましてえ忍びあへ給はず。覺し紛るゝ折もありつるを昔の事とりかへし悲しくおぼさる。いとかうきびはなる程はあげおとりやと疑はしくおぼされつるを、淺ましう美くしげさ添ひ給へり。引入のおとゞのみこ腹に唯一人かしづき給ふ御むすめ、春宮よりも御けしきあるを覺し煩ふ事ありけるはこの君に奉らむの御心なりけり。內にも御けしき給はらせ給ひければ「さちばこの折の御後見無かめるを副臥にも」と催させ給ひければ、さ覺したり。さぶらひにまかで給ひて、人々おほみきなどまゐるほどみこたちの御座の末に源氏着き給へり。おとゞけしきばみ聞え給ふ事あれど、物のつゝましき程にてともかくもあへしらひ聞え給はず。おまへより內侍の宣旨うけ給はり傳へておとゞ參り給ふべきめしあれば、參り給ふ。御祿の物、うへの命婦取りてたまふ。白きおほうちきに御ぞひとくだり、例の事なり。御盃のついでに

 「いときなき初元結に長き世をちぎる心は結びこめつや」。御心ばへありて驚かせ給ふ。

 「結びつる心も深きもとゆひにこき紫の色じあせずは」と奏して、長はしよりおりて舞踏したまふ。ひだりのつかさの御馬、くら人所の鷹すゑて賜はり給ふ。御階のもとにみこたち上達部つらねて祿どもしなじなに賜はり給ふ。その日のおまへの折櫃物こものなど右大辨なむ承りて仕うまつらせける。屯食、祿の辛櫃どもなど所せきまで春宮のおほん元服の折にも數まされり。なかなか限もなくいかめしうなむ。その夜おとゞの御里に源氏の君まかでさ