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しけたれたるありさまこよなうおぼさる。

 「かげをのみみたらし川のつれなきに身のうき程ぞいとゞ知らるゝ」と淚のこぼるゝを人の見るもはしたなけれど、めもあやなる御さまかたちのいとゞしう出でばえを見ざらましかばとおぼさる。ほどほどにつけて、さうぞく人の有樣、いみじう整へたりと見ゆるなかにも上達部はいと殊なるを、ひと所の御ひかりにはおしけたれためり。大將のかりの隨身に殿上のざうなどのすることは常の事にもあらず、珍しき行幸などの折のわざなるを、今日は右近の藏人のざう仕うまつれり。さらぬ御隨身どもゝ、かたち姿まばゆく整へて世にもてかしづかれ給へるさま木草も靡かぬはあるまじげなり。壺さうぞくなどいふ姿にて女ばうの賤しからぬや又尼などの世を背きけるなども仆れまろびつゝ物見に出でたるもれいはあながちなりや。あなにくと見ゆるに今日はことわりに口うちすげみて髮きこめたるあやしの者どもの手をつくりてひたひにあてつゝ見奉りあげたるも、をこがましげなる賤の夫まで己が顏のならむさまをば知らでゑみさかえたり。何とも見入れ給ふまじきえせ受領のむすめなどさへ心のかぎり盡したる車どもに乘り、さまことさらび心げさうしたるなむをかしきやうやうの見ものなりける。ましてこゝかしこに立ち忍びて通ひ給ふ所々は人知れず數ならぬ歎きまさるも多かりけり。式部卿宮さじきにてぞ見給ひける。いとまばゆきまでねび行く人のかたちかな、神などは目もこそとめ給へとゆゝしくおぼしたり。姬君は、年頃聞え渡り給ふ御心ばへの世の人に似ぬをなのめならむにてだにあり。ましてかうしもいかでと