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て率て奉る。相人驚きてあまたゝび傾ぶきあやしぶ。「國の親となりて帝王のかみなき位にのぼるべき相おはします人のそなたにて見れば亂れ憂ふる事やあらむ。おほやけのかためとなりて天の下を輔くる方にて見れば又その相違ふべし」といふ。辨もいとざえかしこき博士にて、云ひ交したる事どもなむいと典ありける。文など作り交して、今日明日歸り去りなむとするに、かくありがたき人にたいめんしたるよろこび、かへりては悲しかるべき心ばへをおもしろく作りたるに、皇子もいと哀なる句を作り給へるを限なうめで奉りて、いみじき贈物どもを捧げ奉る。おほやけよりも多くもの賜はす。おのづから事廣ごりて、漏させ給はねど、春宮のおほぢおとゞなど、いかなる事にかとおぼし疑ひてなむありける。帝畏き御心に、やまとさうをおほせておぼしよりにけるすぢなれば、今までこの君をみこにもなさせ給はざりけるを、相人は誠に畏かりけりと覺しあはせて、無品親王の外戚のよせなきにてはたゞよはさじ、我が御世もいと定めなきを、たゞびとにておほやけの御後見をするなむゆくさきも賴もしげなる事と覺し定めて、いよいよ道々のざえをならはせ給ふ。きは殊に賢くてたゞ人にはいとあたらしけれど、みことなり給ひなば世のうたがひ負ひ給ひぬべく物し給へば、すくえうのかしこき道の人に考へさせ給ふにも同じさまに申せば、源氏になし奉るべくおぼしおきてたり。年月に添へてみやすどころのおほんことをおぼし忘るゝ折なし。慰むやとさるべき人々を參らせ給へど、なずらひにおぼさるゝだにいと難き世かなと、うとましうのみ萬におぼしなりぬるに、先帝の四の宮の、おほんかたち優れ給へる、聞え高くおはしま