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の飽かぬ所は物し給ふ、我心のあまりけしからぬすさびにかく怨みられ奉るぞかしとおぼし知らる。同じだいじんと聞ゆるにもおぼえやんごとなくおはするが宮腹に一人いつきかしづき給ふ御心おごりいとこよなくて、少しもおろかなるをばめざましと思ひ聞え給へるを、男君はなどかいとさしもとならばひ給ふ御心のへだてともなるべし。おとゞもかくたのもしげなき御心をつらしと思ひ聞え給ひながら、見奉り給ふ時は怨みも忘れてかしづきいとなみ聞え給ふ。つとめて出で給ふ所にさし覗き給ひて御裝束し給ふに、名高き御帶手づから持たせてわたり給ひて、御ぞの御うしろひきつくろひなど御くつを取らぬばかりにし給ふ。いとあはれなり。「これは內宴などいふ事も侍るなるをさやうの折にこそ」など聞え給へど、「それはまされるも侍り。これは唯目馴れぬさまなればなむ」とてしひてさゝせ奉り給ふ。げに萬にかしづき立てゝも見奉り給ふに生けるかひあり、たまさかにてもかゝらむ人を出し入れて見むにますことあらじと見え給ふ。

參座しにとてもあまた所もありき給はず、內、春宮、一院ばかり、さては藤壺の三條の宮にぞ參り給へる。「今日はまたことにも見え給ふかな。ねび給ふまゝにゆゝしきまでなりまさり給ふ御有樣かな」と人々めで聞ゆるを、宮は御几帳のひまよりほの見給ふにつけてもおもほす事繁かりけり。この御事のしはすも過ぎにしが心もとなきに、この月はさりともと宮人も待ち聞え內にもさる御心設けどもあるに、つれなくて立ちぬ。御ものゝけにやと世の人も聞えさわぐを、宮いと侘しうこの事により身の徒らになりぬべき事と覺し歎くに御心地もいと苦しくて惱み給ふ。中將の君はいと