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からぬみ心の程もおのづからとたのまるゝ方は異なりけり。

幼き人は見つい給ふまゝにいとよき心ざまかたちにて何心もなくむつれまとはし聞え給ふ。暫し殿の內の人にも誰と知せじとおぼして、猶離れたる對に御しつらひになくして、我も明暮入りおはして萬の御事どもを敎へ聞え給ふ。手本書きて習はせなどしつゝ、唯ほかなりける御むすめを迎へ給へらむやうにぞおぼしたる。まん所けいしなどを初め、ことにわかちて心もとなからず仕うまつらせ給ふ。惟光より外の人は覺束なくのみ思ひ聞えたり。かの父宮もえ知り聞え給はざりけり。姬君は猶時々思ひ出で聞え給ふ時は、尼君を戀ひ聞え給ふをり多かり。君のおはするほどは紛はし給ふを、夜などは時々こそとまり給へ。此所彼所の御いとまなくて暮るれば出で給ふを慕ひ聞え給ふ祈などあるを、いとらうたく思ひ聞え給へり。二三日うちに侍らひ大殿にもおはするをりはいといたくくしなどし給へば、心苦しうて、母なき子もたらむ心地してありきもしづ心なくおぼえ給ふ。僧都はかくなむと聞き給ひてあやしきものから嬉しとなむおぼしける。かの御法事などし給ふにもいかめしうとぶらひ聞え給へり。

藤壺のまかで給へる三條の宮に御有樣もゆかしうて參り給へれば、命婦中納言の君中務などやうの人々たいめんしたり。けざやかにもてなし給ふかなと安からず思へど、しづめて大方の御物語聞え給ふ程に兵部卿の宮參り給へり。この君おはすと聞き給ひてたいめんし給へり。いとよしあるさまして色めかしうなよび給へるを、女にて見むはをかしかりぬべく人知れず見奉り給ふにも方々むつましうおぼえ給ひて、こまやかに御物語など聞え給ふ。宮もこの御さまの