まして 留「ヘイ御免ねヱ 侍「コラ其方は職人體だが口が違やアせんか、此處は御中の口だぞ 留「ヘイ、違やアしません、一寸田中の旦那を呼で御吳なさいまし 侍「何に田中樣を、オー只今恰當是へ御出になつた 留「ヤア田中の旦那、只今は御骨折でアノ尻は餘程堅いかな 三「是は怪しからん奴じや、偖は其方御使者の室へ立寄たナ 留「イヱ旦那、實は皆なが逃ましたが、俺許り逃げそくなつてな、聞ともなしに聞きました、誠に氣の毒な侍だ、俺は孩兒の時から指の先に馬鹿に力があるのですから、俺に一番尻をつめらしてお吳なさいましな 三「馬鹿を云へ、當家の武士に力のある者がないと云つて、職人を賴んでつめらした抔と他人に聞れると御當家の外聞になる、左樣な事は叶ん 留「そんな事を云はずにつめらして御吳なせヱ、若し噓だと思ふなら今お前さんの尻をつめつて見やう 三「コレ何を致す、怪しからん奴だ、然し一寸此方へ上れ、少々相談を致すから 留「畏りました、乄々」と一と間へ上り込で參りました、田中さんは同役と種々御相談をなされて、夫れでは一ツ彼の者へ