ので皆逃ましたが、其中に大工の留と云ふ人物が逃げそこねて、委細樣子を聞きまして、やう〳〵庭へ出て參りまして、一人でゲタ〴〵笑つて居りますから友達が、 熊「ヲイ留、何を笑つて居やアがるのだ、面白くもねエ 留「處がな皆な聞きねヱ、俺は可笑つて堪らねヱよ 熊「何んだ 留「他じやアねヱが、今日此の屋敷へ使者が來たらふ、其使者がヨ、先づ此方からは田中三太夫さんで、拙者事なんてヱもので御座いとやツつけるとな、其使者が妙な面をして田舍の言葉ヨ、手前事はヱーと云つて暫く考えて居て、やう〳〵松平まさめの家來、又ヱーと呻吟て、じぶ田次武左衛門は舍弟で、ヱーと呻吟やアがつて、又やう〳〵思ひ出して、じぶ田次武右衛門と申す者で御座る、とやう〳〵挨拶をするとな、田中の旦那が而て使者の口上はと聞くとな、使者の口上打ち忘れたと云つて、切腹をするから座敷を貸せと云ふのだ、 熊「ソイツは大變だ 留「マア聞けツてヱば、田中さんも大變に心配をして、何うか思ひ出す工夫はないかと聞くとな、へんてこな顏を爲ながら尻を自分でつめツて居