忘れたで御座る、切腹致すは最と安き事では御座るが、某も武士のはしくれ、イザ戰塲に於て殿の御馬前にて討死致すは望む處なれど、使者の口上ぶち忘れて切腹致すは殘念至極に御座りまする」ハラ〳〵と淚をこぼしました 三「夫は〳〵近頃御氣の毒千萬、何にとかして御思ひ出しになる御工夫は御座りますまいか 次武「ハイ、御親切なる御心添へ有難き仕合に存ずる 三「若し貴公には最前より頻りにいしきを御つめりになるやうであるが、夫れは何んの爲で御座るな 次武「ハイ、御見出しに預り面目なき次第であるが、まア一と通り御聞き下さい、拙者幼少の節に學問等を致す時に、能く物忘れを致す、スルと兩親が手前のこの尻をつめり吳れますると、痛ひ〳〵と心得て思ひ出した事が御座るテ、夫れが今に於て習慣と相成りまして、物忘れを致す度に此の尻をつめりますると、痛ひ〳〵と心得て思ひ出して御座る、武士は相身互ひ身、甚だ御無禮では御座るが、手前の尻を一寸御つめり下さらんか 三「何んと仰せらるゝ、貴公御幼少の節物忘れを致されると、御兩親が貴殿の尻を