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えて、声までがちゃんと聞えるのを、知っているかね」と云った。

「あっしは」万助は係官に云うのだった。「テレビジョンなんて、名はよく知らなかったんですが、そんなものが出来たと云う事は聞いていましたし、遠方の声が聞えるのは、ラジオがそうだし、写真がものを云うのは、トーキーていやつで知っていますから、今まで、散々に見せられた不思議と比べれば、遠方の事が見える位、なんでもないと思いましたよ」

 万助がテレビジョンの事は知っているが、見た事はないと云うと、紳士は、

「そう、それでは一つ見せて上げよう。何を見せたらいいだろうね。おお、そうだ。あなたの家を見せて上げよう」

 そう云って、彼はうなずきながら、仕度を始めたが、やがて、部屋の壁に開いていた小さい穴を指して、

「ここから、覗いてごらん。あなたの家の事が見えるから」

 と云って、スイッチをひねって、電燈を消したので、部屋はたちまち真暗になった。



 云われるままに、真暗になった部屋から、小さい穴に眼を当てて、次の間を覗くと、そこには、やや鮮明を欠いた活動写真のようなものが写っていた。そのうちに眼が馴れると、画面は万助の家の一室である事が分った

「暫く見ているうちに、あっしの髪の毛は逆立ちをしましたよ。女房のやつが、見馴れない男を引張り込んでいるじゃありませんか。男のやつの顔をどうかして見てやろうと苦心したんですが、どうもハッキルしないんです。けれども、畜生! いやらしく、男にしなだれかかりやがって、あなたや、って、変に甘たるい声を出しやがって――」

 万助は実に口惜しそうだった。

「そのうちに、テレビジョンの場面は――畜生! いくらなんでも、あっしや、人に話せねえや。あっしや、こう、頭と云わず、腹の中と云わず、身体中を引搔き廻されるようで、身体が変に熱ぽくなって、口がねばっこくなって、動悸がして、どうにもじっとしていられなくなったのです。思わず、畜生! と叫んで、懐中ふところに入れていたピストルをしっかり握りしめたんで」

 すると、彼の耳許みみもとで囁く声がした。それは勿論、彼の傍にいた怪紳士に違いないのだが、万助には、鏡の裏に住んでいる悪魔の囁きのように思えた。

「万助さん、ここでいくら口惜しがったって駄目だよ。それは、お前さんの家で起っている事だからね」

 万助は大きな涙をポロポロ落しながら叫んだ。

「旦那、後生ですから、あっしを家へやっておくんなさい。あっしは、あの野郎をぶち殺さなくちゃ、男の一分が立たねえや」

 紳士はしかし、容易に帰宅する事を許してくれなかった。が、最後にはとうとう万助の執拗な要求を退ける事が出来なくなって、

「乱暴な事をしてはいけないよ。それでは、途中まで送って行こう」

 と云って、万助を自動車に乗せて、新宿駅まで送ってくれた。

「あっしは、夢中で、省線電車に乗り、家に帰ったのです。すると、恰度、間男のやつが、家の中か