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「私が周旋ましたんや」
「えゝッ」
「私が周旋ましたんや」彼は益々雄弁になつて来た。
「抛たらかしといたらあゝなるのんに中々かかりますよつて、私が旨い事して、駈落さしましたんです」
「えゝ、じや、二人のうち誰かゞ君に頼んだのですか」
「違います、違います」彼は首を振つた。
「私が二人を焚きつけたんです」
「焚きつけた?」
「そうだす。私が結んでやるまで、二人はほんまの他人だ〔ママ〕したのです」
僕は少し宛分りかけて来た。詰り、藤田と岩元の間は何でもなかつたのを、彼が骨を折つて恋愛関係に陥らしたと云うのだ。
「だつて君、藤田の方で何とも思つていなければ、君の力だけでそう易々と行かないでしよう」
「あんたも苦労が足りまへんな」奇声山はこの時初めてニヤリと笑つた。
「藤田みたいな年頃で、男欲しいと思うてるもんは、若い男やつたら、相手構やしまへん。旨い事一遍手握らしさえしたら、後は野原の火や、自然にドン〳〵燃え拡がつて行きますのや」
「で、どうして相手に岩元を選んだんだ」
僕の声は思わず荒くなつたが、彼には一向応えないようだつた。
「手近だしするさかいな。私は急いでましたのやで――」
「じや君は、つまり欠員を一人作る為に、そんな事をしたんだね」
「そこまで云うて貰うたらどもならん。私の身になつて――」
「うぬッ」
酔つた勢もあつた。然し只己を利する為に、谷口の事も知らず、藤田や岩元の将来も思わず、他人の幸福を踏みにじつて平然としている、彼の亡恩的な顔が癪に障つてならなかつた。ムラ〳〵と籠み上げて来た怒気に、僕は思わず力委せに彼の頰ぺたを殴り飛ばした。
「うわ――」
泣声とも叫声ともつかない変な声を出した奇声山は、打たれた頰ぺたを押えながら、敢て抵