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中にのさばつて、全体としてひどくグロテスクで、日本人離れがしていて、画に描いた西洋の妖婆が脱け出て来たかと思われた。彼は手した不恰好な指揮杖ミシクリ―・ケインをいじくりながら、ギロギロ眼を動かして、隣りの卓子の会話を盗み聴き始めたのだつた。

 隣りの卓子には学生服を着た青年の一団が座を占めていた。

「そうかい、君ん所のもとうとうやられたのかい」

「うい、随分気をつけていたんだが、とうとうやられたよ。親父はひどく残念がつていたつけ」

「そいつは惜しい事をしたね。矢張短銃でかい」

「うん、一発でやられたらしいよ」

「それで何かい、首輪を持つて行つたかい」

「いゝや、首輪は持つて行かなかつた」

「ふん、そうすると、首輪を持つて行く時と、行かない時とあるんだね」

「そうらしいね。Sの所では首を切つて持つて行かれたんだからね。ひどいよ」

「あれには流石のSも驚いたらしいよ。いかに犬でも。首なしの屍体が転がつていたんじや耐らないつて気味悪そうに話していたからね」

「だが、一体そう方々のブルドックを殺して歩いて、どうする積りだろう」

「分らないね。始めは窃盗に這入る為だろうとか、犬一匹に何万円も出すブルジョアに対する反感だろうとか云われたが、此頃のようにブルドックとさえ見れば、手当り次第に殺すようになつては、気狂としか思えないね」

「前世で猿だつたんだろう、そいつは」

「だつて、猿ならブルドックに限らない、どんな犬でも殺しそうなものだ」

「所が、ブルドックに嚙み殺されたんだつてね。アハヽヽヽヽ」

「アハヽヽ」

 一同が笑い崩れたので、隣りで聞耳を立てゝいた怪しい男も、釣り込まれたか、二ヤリと薄気味悪い笑を洩らした。

「面白そうな話だが、一体どう云う事なんだい」

 一行の中には予備知識のないものがあると見えて、笑声の稍下火になるのを待つて尋ね出したものがあつた。