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ぬ。と云うのはたゞ一度だけれど首を切つて持つて行つたからね、之は容易に首環が拔けなかつたからかも知れないが、そう云う突飛な事があるかも知れない。

 けれども、以上の二つの推測はブルドック射殺事件が高野殺害事件と関係なく起つた場合であつて両者が同一犯人によつてなされたとすると、解決は容易になつて来る。

 即ち高野のブルドックは多分短銃で傷を受けていたのだろう。それでなければ彼は犯人を嚙み伏せる事が出来たろうじやないか。で、傷を受けた犬は其後少しも現われない所から見て、どこかで斃れたと見るのが至当だ。犬の斃れている所へ通りかゝつた浮浪人のような種類の男が、首環を盗んで売飛すと云つたような事は、頗るあり得べき事だ。その首環はいずれ見事な高価なものであつたろうから、転々と売られた事であろう。高野を殺した犯人が非常手段でそ の首環の行方を探すのは当然じやないか」

「じや、宝石は未だ首環の中に隠されたまゝ、どこかの古道具屋か、それとも犬の首にかゝつているのですね」青年は顔色を変えて唸るように云つた。

「首環は確かに君の云う通りだと思う」

「え?」青年は眼を瞠って竜太の顔を見上げた。

「首環は確かに君の云う通りだが」竜太は前の言葉を繰り返えママしながら、

「宝石はどうだか分らない」

「えつ、それはどう云う事ですか」

「宝石はもう首環の中にないかも知れぬ。誰かゞ取り出したかも知れぬ」

「えつ、え、それは誰ですか」

「そいつは僕にも確乎分らない。首輪の中に宝石が隠されていたと云う事実さえ、今日漸く判然と気がついたのだからね。だが、僕には一つの推定がある」

「ど、どう云う推定ですか」

「それは高野が何故夜遅くブルドックを連れて外出したかと云う事から出発する」

「――」駒田は腑に落ちないと云う顔をした。

「そうだろう、ね」竜太は納得させる様に、

「ブルドックには大切な宝石が隠されている。その犬を連れて何も夜外出する必要はないだろう。第一夜遅く散歩と云うのも可笑しい。彼は必ず何か必要があつて、ブルドックを連れて行つたのだよ」