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「所で君は」竜太は驚いている青年を尻目に見ながら、

「先刻カフエ・オーリアンでブルドックの話をしていたのを聞いていたかい」

「いゝえ」

「それがね、彼奴――野波とか云ったね、無論偽名だろうが、確かに関係があるんだ」

「宝石にですか」駒田は急に眼を輝やかしながら、熱心に訊いた。

「うん」竜太は青年の態度の変化に格別気を留めないで、

「問題は殺された高野修吉なんだ。彼については僕は久しい以前から研究していたが、信ずべき報告によると、彼は殺される少し以前、素晴らしい青い宝石を手に入れたらしいのだ」

「えつ、青い宝石!」青年はさつと顔色を変えて、険しい眼をして竜太に詰め寄つた。

「うん」竜太はうなずいたが、青年の顔をじつと見ながら、

「君はその事を知つているのかい」

「いえ」僕ママはあわてゝ首を振つた。

「そうだろう。この事は余り知つている人はない筈だから」竜太はうなずいたが、彼は鋭い眼で駒田の様子をじつと覘いながら、

「所で、その宝石は余程値打のものと見えて、高野の手から奪おうとするものがあり、彼も宝石の隠場所には困つたらしい」

「ど、どこへ隠したのですか」青年は再び詰め寄るようにして訊いた。

「君はこの話に大分興味を持つたようだね」竜太はニヤリと笑いながら、

「僕の宅まで来給え、委しく話すから、こゝは往来で都合が悪い」



 手竜太の家は池袋にあった。彼は駒田青年と共にタキママシーを飛ばしたが、家についた頃にはもう一時を過ぎていた。駒田は人気のないガランとして奇妙な建物の中に引入れられようとした時には、思わず後退りをした。家のどこかの隅から、異様な野獣のような叫声が、折々物凄く洩れ聞えるのだつた。

 漸く居間らしい所に相対して腰を下すと、駒田は直ぐに口を切つた。

「青い宝石の話をして下さい」

「よろしい」竜太は大きな鼻を蠢めママかしながら、