族、富豪、そんな者共は何を欲していると思う。彼等はみんな青春が欲しいのだ、彼等はみんな、飽く事のない慾望に加うるに、永久の青春を望んで、煩悶してるんだよ。ね、君よく考えて見給え。君のその輝かしい青春を、無駄にして終おうと云うのかい」
酔つた勢か、それとも何か企む所があつてか、野波は雄弁に熱心に駒田を説くのだつた。駒田は黙して答えなかつたが、野波の言葉に動かされたと見えて、彼の顔は次第に希望に輝いて来るのだつた。
と、不意に野波の肩を叩いた者があつた。
「いや、ヘンリー・オットン卿中々の名論卓説でござるな」
野波は驚きの余り飛上りながら振返ると、小柄な妖異な相をした男がニヤ〳〵笑いながら立つていた。彼は三人目にオーリアンを出た男だつた。
「や、君は、オーリアンにいた――」
「いかにも、たつた今までオーリアンに居りまして、閣下をお慕い申してな、又こゝまでついて来ましたのじや」
「一体、き、君は誰だ」
「手塚竜〔ママ〕太と云いましてな商売は弁護士でござるが、実は」彼はおどけた云い方を少しも変えずに、
「それは世を忍ぶ仮りの看板、金になる事なら何でもいたしますで。只今オットン卿の仰せの通り、いやはや、道徳などと云う事は笑うべきものでござるな。その点では、竜太知己〔ママ〕を得てこんな嬉しい事はありませんて、願くば握手の光栄を得たいものですて」
彼は一息にこう喋りながら、茫としている野波の手袋を嵌めた右手をぎゆつと握つた。小男にも似合わない彼の怪力に、野波は思わず顔をしかめた。
「い、痛い」彼は口の中で呻いたが、やがて、腹立しそうに云つた。
「可笑しな物の云い方は止して呉れ給え。そうして一体僕をオットン卿などと呼ぶのはどう云う訳だ」
「ハヽヽヽ、いや失礼」竜太はニヤリと笑つて、
「こちらにそれ、ドリヤン・グレイ殿がお出でござるからな、閣下をへンリイ・オットン卿とお呼びしたのじや。オットン卿は遊蕩児を仕立てるに妙を得た方でござるでな」
「で一体」野波は忌々しそうに、