暑苦しく蠢いていた。
午後十一時過ぎ、カフエ・オーリアンの扉󠄁から、相次いで吐き出された四人の男があつた。
一番始めに出て来たのは、例の悄󠄂然とした貴公子然たる青年だつた。次に出て来たのは例の背の高いハイカラ紳士で、彼はそつと青年の後について行った。三番目は指揮杖󠄀をブラ〳〵提げた背の低い醜い男だつた。彼も二人の後を追つて行くらしい。四番目に出て来たのは眉深に被つた鳥打帽子の下から、凄い眼をギロ〳〵光らせている怪しい男だつた。彼は注意しながら、三人の後を追つて行くのだが、目標は二番目の瀟洒たる紳士にあるらしい。
この異様な四人の行列は間隔を凡そ四五間づつ置いて、七八分の間続いた。と、先頭の青年は或る横町に曲つた。続いて歩いていた紳士は何と思つたか、急に足を早めた。で、当然彼は青年に追いついたのである。
「おい、君」彼は馴々しく青年を呼びかけた。青年は急いで振返つたが、見知らない人だつたので、彼の眼には明か〔ママ〕に驚駭󠄂の表情が現われた。
「君は」紳士は口早に続けた。
「オーリアンにいたね。あそこは好い所だね。僕はとても気に入つているのだ。それに今晚は馬鹿に愉快なんだ。おい君、どこかで飲もうじやないか」
青年は迷惑そうな顔をしていたが、相手は立派な紳士だつたし、泥酔と云う程ではなく微酔機嫌で馴々しく話しかけているので――こんな事はあり勝ちだから――漸く決心したように答えた。
「好いですね、お供しましよう」
「来給え、モンブランという家だよ。落着いて旨い酒を飲ませるし、綺麗な女給がいるよ。恐らくとくちやん以上だぜ」
「えつ」最後の一句にドキンとしたように青年は顔を上げた。
「ハッハッハ、何でもないのさ。さあ行こう」
紳士は四辺に響くような大声で笑うと、青年の腕をしつかり抱えて、さつさと歩き出した。
カフエ――と云うよりは