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穴の事を知っていたのです。

 それで茂吉はあの男にその事を相談すると、暗号だけ知っていても肝心のその足の中に入れてあった宝石がなくては何にもならないというので、あなたに眼をつけ始めたのです。無論悪人共はあの穴に宝石があって、それが何かの役に立つと考えたのです。友田商会の社長とか、骨董屋の番頭とかいうのはみんな共謀ぐるなのです。共謀して偽の玉を大切そうに飾って、あなたにああいう形をした水晶なりダイヤモンドなりを出させる積りだったのです。実際旨くやりましたから、あなただってもしそんなものを持っていたら、取替えてもらう積りか、それとも値打を見てもらう積りで、あの店へ持って行ったかも知れませんからね。あなたの持っていたのが鉄の塊だったので、一向そんな事に気がつかなかったのが、向うに取っては生憎あいにくで、こっちに取ってはさいわいだったのです。

 ところで、あの二人はいつの間にか私達の事を嗅ぎつけていたと見えます。私達があなたの郷里の方に出かけたので、二人はきっと私達が宝の在所ありかを考えついたものと思い、そっと後をつけて蔵の外で様子を窺っているうちにあの災難に遭ったのです」

 聞き終った直子は感謝に堪えないように、繁太郎の顔を見ながら、

「あれもこれも皆あなたのお蔭ですわ。私はあなたのお蔭で救われました」

「いいえ」繁太郎は首を振った。「私こそあなたに救われたのです。私は幸福です」

 そう云って繁太郎は立上って固く直子の手を握った。直子はポッと顔を赤くしながらじっと彼のすままに委していた。