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「だが、探しても気の毒ながら俺のもんだぜ」

 向疵の男はひややかに云った。

「馬鹿を云え、袋には俺の名が書いてあったと云うからには俺のものだ」

「冗談云うな、俺が命懸けで持出したのだ」

「生命を懸けたのはお互様たがいさまだ。俺はお前に殺され損ったのだ」

「何と云っても、俺に正当の権利がある」

「そんな事があるものか」

「おい、お前は人殺しの兇状持ちじゃないか、俺が一言喋ればお前の首は飛ぶのだぜ」

「何をっ! そう云うお前だって、自慢する程潔白じゃあるめい。今云う砂金だって俺が一言滑らしゃ、素直にお前のものになるものか」

「そりゃ又どうしてだ」

「どうしてだと、へん、手前はその砂金をアラスカから正当に持出したのだと云うのか」

「うるせいっ、砂金は何と云っても俺のものだ」

「こう、待て」頰疵の男は仔細らしく云った。「喧嘩は後だ。とに角砂金を探さなくちゃ話にならねえ」

「何探すには及ばねえ」向疵の男は平然と答えた。「俺はさっきから砂金の袋に腰をかけているのだ。俺はお前より一足さきにここへ来て、ちゃんと縁の下から掘り出したのだ」

「なにっ!」

 頰疵の男は突然向疵の男を突飛ばした。不意を食って、彼はたちまち転った。その拍子に懐中電燈はふっ飛んで、パッと消えた。

 暴風雨はこの汚らわしい廃屋を倒さねば止まぬように吹きすさぶ。降り込む雨に床下は沼である。

 闇の中をんずほぐれつ、二人の男は六年前の浅ましい闘争を繰り返すのだった。


 翌朝嵐が過去って、真珠色の太陽が金色の光をこの小さい岬に投げかけた時に、廃屋は見る影もなく倒れていた。そうして、その中には一面に撒き散らされた黄金こがねの粒の上に、二人の荒くれ男が息も絶え絶えにもがいていた。

 二人はやがて死体となり、太陽はいつまでも、その上に輝いているだろう。この倒れた廃屋に再び人の訪れるのは、事によったら、又三年後の暴風雨の晚ではないだろうか。


(一九二六年十月号)