「だが、探しても気の毒ながら俺のもんだぜ」
向疵の男は
「馬鹿を云え、袋には俺の名が書いてあったと云うからには俺のものだ」
「冗談云うな、俺が命懸けで持出したのだ」
「生命を懸けたのはお
「何と云っても、俺に正当の権利がある」
「そんな事があるものか」
「おい、お前は人殺しの兇状持ちじゃないか、俺が一言喋ればお前の首は飛ぶのだぜ」
「何をっ! そう云うお前だって、自慢する程潔白じゃあるめい。今云う砂金だって俺が一言滑らしゃ、素直にお前のものになるものか」
「そりゃ又どうしてだ」
「どうしてだと、へん、手前はその砂金をアラスカから正当に持出したのだと云うのか」
「うるせいっ、砂金は何と云っても俺のものだ」
「こう、待て」頰疵の男は仔細らしく云った。「喧嘩は後だ。とに角砂金を探さなくちゃ話にならねえ」
「何探すには及ばねえ」向疵の男は平然と答えた。「俺はさっきから砂金の袋に腰をかけているのだ。俺はお前より一足さきにここへ来て、ちゃんと縁の下から掘り出したのだ」
「なにっ!」
頰疵の男は突然向疵の男を突飛ばした。不意を食って、彼はたちまち転った。その拍子に懐中電燈はふっ飛んで、パッと消えた。
暴風雨はこの汚らわしい廃屋を倒さねば止まぬように吹き
闇の中を
翌朝嵐が過去って、真珠色の太陽が金色の光をこの小さい岬に投げかけた時に、廃屋は見る影もなく倒れていた。そうして、その中には一面に撒き散らされた
二人はやがて死体となり、太陽はいつまでも、その上に輝いているだろう。この倒れた廃屋に再び人の訪れるのは、事によったら、又三年後の暴風雨の晚ではないだろうか。
(一九二六年十月号)