「砂金!」思わず彼は声を挙げた。
「砂金よ」啞のように黙っていた爺さんは顎をガチガチ云わせながら、嘲けるように口を利いたものだ。
「砂金!」もう一度彼は叫んで、手を伸ばすと、畳の上をー摑み、十粒あまりを摑み取って、小供が熱望していた
猫が鼠に戯れるように砂金を
彼がぱっと飛びしさって、悪鬼のような老婆と相対した時には、もう自分の生命を守るより外の事は考えなかった。彼は老婆の手許に飛込むと両手で頸を絞めた。後ろから飛びついて来た老爺を、忽ち押倒して同じく頸を力
彼は茫然として二人の犠牲を眺めた。
ああ、すべては砂金のさせた事だ。けれども、誰が彼の立場を認めて呉れるだろうか。牢獄、死刑、彼はぶるっと
彼はたちまち身を
これがまあ、三年前のこの家に起った夫婦殺しの
語り終って、頰傷の男はニヤリと笑った。だが、その笑には隠すべからざる悲痛の色があった。
四、最後の暴風雨の夜
二人の男の話が済んでも未だ暴風雨は止まなかった。廃屋は二人の男にそのすべての歴史を語り尽されて、もう敢えて存在する必要もないのだろう、今にも斃れそうに
顔を見合した二人の男はまじろぎもせず、お互にじっと見詰めた。
「お前無事でいたのか」額に傷痕のある男は云っだ。
「お前も無事でいたのか」頰に傷痕のある男は、
「六年前にこの岬のとっ端から抛り込まれた時には、もうお終いと観念したが、未だ運が尽き