カシノの昂奮――上海奇聞
甲賀三郎
グッド・ルーザー
国際都市上海の賭博場――といっても堂々と公開しているのではない、共同租界の或るビルジング内のダンスホールに隣合って秘密に開かれているのだが、経営者はガートリという英系ユダヤ人で、租界切っての顔役なので、工部局の役人達も見ぬふりをしている為に、却って安全という訳で、ひどく繁昌〔ママ〕している。尤もここではタキシードや夜会服に着飾った所謂紳士淑女は余り見られない。それ所ではない、ネクタイなしの労働者風の男さえ交っていようというほどで、半分は専門の賭博打ちである。従って柄は至って悪く、賭博の手段も「球ころがし」のような悠長なものではなく、骨牌の勝負だが、それもブリッジとか、ポーカーとか多少頭脳を使う「推理の勝負」でなく、手取早い一か八かの「偶然の勝負」である。
『あのジャップはひどく気前がいいじゃないか。』
『うん、中々負けっぷりがいい。』