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じゃ承知しねえぞ。千弗より下はお断りだ。』

『あなた。』小柄な男はボンやりしている友吉に向って、『いくら負けましたか。』

『五千弗です。』友吉は小さい声で答えた。

『五千弗ですか。』といって、小柄な男はジムの方に向き直って、『五千弗行こう。』

『よろし。』

 ジムは五千弗の紙幣さつを取出して卓子テーブルの上に置いた。小柄な男もそれに倣った。

 この時に、二人の争いは賭博場カシノ中に知れ渡っていた。賭博場に居合せた人達は、みんな勝負を棄てて、稲妻ジムと小柄な日本人との相対している卓子テーブルの周囲に集った。酒場にいた客も伝え聞いて、ドヤドヤとやって来て、その外側を取巻いた。オットもステファニの顔も見えた。踊子ダンサー達もいた。誰の眼も昂奮で光っていた。只、小夜子だけは気遣かわしそうに、オドオドと見守っていた。

『さア、いいか。』ジムはあたりの人達に聞えるように大声を出した。『このカードを切って、ハートのエースを出せば俺の勝ママだぞ。』

『もし切れなかったら、俺の勝ママだ。』小柄な男は落着き払っていった。彼の片言英語ブロークン・イングリツユはいつの間にか歯切りママのいい英語に変っていたが、誰も疑念を起す余裕のあるものはなかった。

『よし、じゃ、よく見てろ。後で文句をいうな。このカードは今新しいのをお前が封を切って、お前が調べて、お前が混ざ合ママしたのだぞ。俺は未だ指一本触れてないのだ。種も仕掛も、インチキもありようがねえんだぞ。』

『分った。能書は止しにして、早く切れ。ハートのエースを出せばお前の勝ママだ。』

『さア切るぞ。』

 稲妻ジムは右手をカードに掛けたが、たちまち眼にも留まらぬ早業で、左手を延ばして、カードに持ちえようとした。

『待て。』小柄な男はりんとした声を張り上げた。『左手を使うな。カードを二つに切るのは右手だけで沢山だ。』

『うむ。』

 ジムは唇を噛んで、忌々いまいましそうに小柄な男を見上げた。

『どうした、早く切らないか。』小柄な男は嘲けるように促した。

『うむ。』

 ジムはもう一度唸って、額に膏汗あぶらあせをにじませたが、突然、

『さあ、切るぞ。』

 と叫ぶと、たちまち身体をひねらして、ズボンのポケットから剃刀かみそりを取り出し、アッという暇もなく、卓子テーブルの上のカードの束に刃を当てて、

『うん。』

 と、力を入れると、上から下までカードを残らず真ニツに切り放して終った。

 周囲まわりの見物はその物凄い意気込みに押されて、声を出す者もなかった。

『さア、どうだ。』ジムは威丈高になって、『これでハートのエースを確かに切ったぞ。どうだ、これでハートのエースが切れねえというか。確かに真二つだぞ。』