犯人が内部の者でなければならぬと云うので、この説は相当
帰国早々税関吏との不愉快な折衝をして以来、事々に不愉快を重ねた松坂の不機嫌はその絶頂に達して、一刻も早くこの不愉快から免れたいと念じたが、ただいらいらする
三
ニウルンベルクの名画が紛失してから三日目の晩、松坂は寝られないままに、書斎の椅子に
松坂の頭には滞欧時代の楽しい追憶が浮び出て来た、かと思うと、直ぐそれは現在の苦々しい事件を思い出す事に依って、ぶち壊された。彼はその対策について考慮を巡らした。が、彼の頭には又間もなくもニウルンベルクで画を買い取った時の光景などが、
と、静かに
「えー、
彼は一気にこれだけの事を云うと、気遣わしそうに松坂の顔を見上げた。流石に頑固一徹の彼も、この二三日、名画の紛失と云う重大事件に突当って、一方では主人の不機嫌を一身に引受けるし、一方では警官や私立探偵や新聞記者から、うるさい訊問を浴せかけられながら、邸内の捜索やそれからそれへと詮議をしなければならないので、心身ともに疲れ果てていると云う風だった。しかし、今晩は何事か余程決心をしたと見えて、そうした疲れの中にもきっとした態度を示して、松坂を見上げた眼の中には、一種異様な光りがあった。
「何だね、改って――」
松坂は
「御立腹になりますと、恐縮いたしまするので、どうか是非御立腹なく
「腹なんか立てやしないッ!」松坂は怒鳴った。「早く云っておしまい」
「は、は」執事はひどく恐縮しながら、「それでは申上げまするが、
「何だって?」松坂には呑み込めなかった。
「御前様がどちらかへ御納めになりました例の画でござりまするが――」
「お黙りッ!」老執事が何を云っているのかが分ると、松坂は真赤になった。「お前はわしがあの画を隠しているとでも云うのかッ!」
「は、はい」粕谷老人はうろうろしながら、「そ、その御立腹は誠にはや、是非もなき儀でござりま