尖つた針のようなもので中心が支󠄂えてあるのだ。だからこう云う風にギロ〳〵動くのだ。そうしてその眼の玉とバランスしている代物は何ん〔ママ〕だと思う。飛切り上等のダイヤモンドなんだぜ」
「う、う」菅原は口惜しそうに唸つた。
「ハヽヽヽ、飛切上等の大粒のダイヤモンド二つ、之は君の亡くなつた細君のものなのだぜ」
手塚は又󠄂も毒舌を弄し始めた。
「細君はそれ宝石商の柏木に頼んで、こう云う
「う、う」菅原は又󠄂口惜しそうに唸つた。
「だが、君の欲しがつたのはこの人形の眼の奧についていたダイヤモンドではない、実は腹の中に這入つている一枚の紙なんだ」
「わあ――」
何か訳の分らぬ叫声を発して、菅原代議士は手塚に飛かかろうとした。が、手塚は忽ち体をかわして、菅原をねじ伏せて終つた。小男ではあつたが、彼の腕カは蓑島も経験した通り、普通以上だつた。
「ハヽヽヽ、そう易々と之を渡してなるものか。この人形の腹の中の紙片には、貴様の数々の罪状の退引ならぬ証拠が書きつけてあるのだ。貴様の貞淑な細君は度々貴様の悪事を諫めたのだ。然し、貴様が一向聞かないものだから、彼女は貴様の罪状を書き連ねた紙片をこの人形の腹の中に隠して、それで貴様を威しながら改心させようとしたのだ。彼女が人形の眼の奥に高価なダィヤモンドを仕掛けたのは、こうして置けば彼女がこの怪異な人形を大切にしても全く宝石の為だと思われて、腹の中の紙片の事は容易に気づかれない為だ、貴様はこの人形が欲しい許りに、細君を亡きものにしようと思つて、少しずつ毒薬を嚥ましたのだ。彼女はその為にとうとう柏木の家で不思議な死に方をしたのた。けれどもお気の毒な事には人形はいつの間にか盗まれて、行方が知れなくなつたのだ。どうだ。俺の云う事に間違いがあるか」
得意気に語り終ると、手塚はぱつと菅原を突き放した。
「うぬ、うぬ」菅原は拳を固めて息巻いた。
「さあ、之れだけ云つて聞かせれば大抵分つたろう。いざこざを云わないで、十万円の小切手を書け。皮切りにしては安いものだ。これからだつてそう度々無心には来ないよ」