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の相は悪魔そつくりなのです。眼は円くギラ光り、鼻は平たく膨れ、口は大きく彎曲しています。実に二た目とは見られない怪異な相です。それに私には今大罪を犯して来た弱味がありますから、その人形は恰度私の犯罪を知り拔いて咎めでもするように私を睨むように思えるのです。私はその人形がだんだん恐ろしくなり、じつと見ているに堪えませんでした。で、そつと眼を外そうと思つた途端に、人形の眼がギロリと動きました。

「あッ」と思わず声を上げましたが、一生懸命に勇気を出して、おのれと思いながら、人形をじつと睨みつけますと、ギロリと又󠄂眼が動くのです。

「畜生!」私はそう呶嗚つて、恰度湯を沸す為に火のつけてあつた瓦斯七輪に人形を叩き込みました。

 見ているうちにメラと溶けるだろうと、嘲けるように人形を見ましたが、奴は平気なものです。見る半身は赤くなりながら、相変らず、いや前よりも盛んに眼をギロ動かしているのです。

 私はもう耐らなくなりました。瓦斯の火を消すと、そのまゝ外へ飛出しました。それから一度も家に帰りません。今日友達の所へ寄つたのは、実は後の事を頼んで自首して出るつもりでした。

 私も生れママつきの強盗で、恐ろしい目にも度々会つた事はありますが、あの人形みたいな忌々しいものに出会つた事はありません。

 語り終つた彼はさも恐ろしいと云う表情をしたのだつた。

 係官は彼の言葉に従つて、早速彼の隠家を訪ねたが、真珠の頸飾りは発見する事が出来たが、問題の眼の動く人形はどこにも認める事が出来なかつた。一同は非常に不審に思いながら、引上げる他はなかつたのだつた。


 読み終つた蓑島は茫然とした。眼の動く人形の奇怪な物語りは、彼を極度に感銘させずには置かなかつた。然し、一方では兎に角殺人犯人が捕縛されたので、彼が蒙るであろう所の嫌疑も、之で消滅した訳なので、彼はホッと安心しながら、ノソノソと床の中から這出した。

 と、表に訪う声がして思いもかけず手から迎えの自動車が来たのだ。

「眼の動く人形の神祕相解け申候につき」と云う数行の文󠄁句が、蓑島の心を強く刺戟して、不安そうな顔をしている妻を尻目にかけて、いとも勇敢に手の招きに応ぜざるを得なかつたの