した。実際もし隠れた同情者である手塚弁護士の援助がなかったら、私はとうに絞首台こ上っていたかも知れません。しかし、幸に私は三年間未決監に呻吟した後、ようやく証拠不十分として放免されました
私の放免されたのは一昨日です。私の放免されると云う記事は、新聞に一二行も出たでしょうか。
三年前にあれ程騒ぎ立てた新聞記者も誰一人私の出獄を迎えるものはありませんでした。もっとも私は少しも彼等の健忘を恨みはしません。いや、
両親に棄てられ、世に見棄てられ、健康を失い、家もなく妻子もない私が、何の希望をこの世に持ち得ましょうか。私が死んだとて、誰が悲しみ誰が笑うでしょうか。どこの誰の心に
目的の緑の廃屋は
三
廃屋の入口は映画面に写し出された通りに、朽ち果てた自然木の門柱が立っていて、門柱には風雨に洗い去られた文字の跡がありました。
映画「髙原の秋」の撮影監督者がどうして意味なしにこんな所を取り入れたのか。何でもロケーション中の一日の事、何かの工合で撮影が中止になったため、
門柱に書かれた文字、これが私にとって大問題なのです。私はじっと剥げ落ちた文字の跡を睨みま した。
門柱には、ああ、矢張私の信じていた通りでした。確かに緑林荘と書かれていたのです。気の
緑林荘! この深山の中に半ば崩れ落ちている廃屋の緑林荘と、東京郊外目黒にある、あの宏壮な 緑林荘との間には何か関係があるのでしょうか。私は確かに関係があると信じます。緑林荘などと、 忌わしい、誰もつける事を欲しないような名をつけるものが、あの偏執狂の鳥沢を除いて他にある筈がありません。