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媚を異性にむかつて流し遣󠄃ることである。その樣態化󠄃としては橫目、上目、伏目がある。側面に異性を置いて橫目を送󠄃るのも媚であり、下を向いて上目ごしに正面の異性を見るのも媚である。伏目もまた異性に對して色気ある恥しさを暗󠄃示する點で媚の手段に用ひられる。これらのすべてに共通󠄃するところは、異性への運󠄃動を示すために、眼の平󠄃衡を破つて常態を崩すことである。しかし、單に「色目」だけでは未だ「いき」ではない。「いき」であるためには、なほ眼が過󠄃去の潤ひを想起󠄃させるだけの一種の光澤を帶び、瞳󠄂はかろらかな諦󠄂めと凛乎とした張りとを無言のうちに有力に語つてゐなければならぬ。は、異性間の通󠄃路としての現實性を具󠄄備してゐることと、運󠄃動に就て大なる可能