Page:Iki-no-Kozo.djvu/103

このページは校正済みです

 自由藝術󠄃として第一に模樣は「いき」の表現と重大な關係をもつてゐる。然らば、模樣としての「いき」の客觀化󠄃は如何なる形を取つてゐるか。先づ何等か「媚態」の二元性が表はされてゐなければならぬ。またその二元性は「意氣地」と「諦󠄂め」の客觀化󠄃として一定の性格を備へて表現されてゐることを要する。さて、幾何學的圖形としては、平󠄃行線ほど二元性を善く表はしてゐるものはない。永遠󠄄に動きつつ永遠󠄄に交󠄄はらざる平󠄃行線は、二元性の最も純粹なる視󠄃覺的客觀化󠄃である。模樣として縞が「いき」と看做されるのは決して偶然ではない。「昔々物語」によれば、昔は普通󠄃の女が縫󠄃箔の小袖を着るに對して、遊󠄃女が縞物を着たといふ。天明に至つて武家に縞物着用が公許されてゐる。さう