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る時は、伴天連は殘賊の棟梁、謀反殺害人の導師とも云つべし。兎にも角にも、いやなる宗旨と思召せ。

或問、提宇子の宗旨には奇特多く、別してマルチルと云て、法の爲に命を捨る者共の上にては奇瑞多と聞。實否如何が候や。

答云、其事にて候。何事も聞ては千鈞より重く、見ては一兩よりも輕き習ひと思召せ。彼徒奧深きやうに申せども、左も無候ぞ。我等も十九出家の後、彼寺に二十二三年も修行を經、人の數にもかぞへられて候が、何にても奇特なることは一も見ず候。又マルチルの上にも何にても奇瑞〈一本瑞ヲ特ニ作ル〉を見ず候。總じて新しき宗旨建立の初には、邪正を糺して初祖を逼迫せしむることある習にて候。喩へば、高祖日蓮聖人は大難四度、小難數を知らず。法の爲に浮沉に及び玉ふ內〈他ノ一本內ヲ成ニ作ル〉に、鎌倉にては相摸守の下知にて、高祖の頭を刎んと敷皮の上に引居〈一本居ヲ揚ニ作ル〉られ、旣に太刀取、白刄を提げ、後に囘り太刀を振揚んとすれば、靈光、高祖〈一本高祖ノ下ヲノ字アリ〉圍み、刀刄段々と成て、太刀取の目くれ、はなぢたつて地に倒る。其外、殿中も電光の如く輝きわたる靈夢等の奇瑞によりて、聖人權者にてもましますこと露顯して、相摸守も驚かれ、刑戮を止め玉ふ。猶委くは傳記に在べし。加樣の奇瑞有て、弘通の處、正法たる義を徹し玉ひてこそ、濁世末法の今にも人皆渴仰の〈他ノ一本ノヲシニ作ル〉首を傾け候へ。邪法を弘る伴天連誅戮に行はるれども、奇も瑞