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哉。マルチリ〈一本リヲルニ作ル〉とて、法の爲には身命を塵芥よりも輕くさすること、賢君天下を治め玉ふには、勸善懲惡の義あり。善を勸むるは賞、惡を懲すは罸、罸は命を絕するより大なるはなきに、提宇子の命をたゝるゝをも恐れず、宗旨を替へざるは、誠に甚だ怖るべき者なり。此猛惡何國より起るぞと見れば、第一のマダメント、万事に越て、Dsを大切に敬ひ奉れと云より也。如是邪法を弘むるは、偏に天魔の所行なり。此等の邪說巨細に擧て、上聞には達すべからず。君誠に聰明叡智に在ませば、一を聞召ても十を察し玉ふ。上より深く彼徒を戒め退治し玉ふこと傳聞く。昔日異朝の聖主、猛獸を退け、洪水を治め、民の居を安すんぜしめ玉ふ恩澤にも、勝れること百倍せり。猛獸洪水は色身の讎〈一本讎ヲ怨ニ作ル〉、彼の徒は眞を亂する佛敵法敵、特には國を奪んとする殘賊の徒なり。誰か之を惡まざらん。さて又、名をつけ塩をなめさせ、燈に手をかけさする體の義は、是非を論ずるに足らず。此ハウチスモの授を受ざる者は、善人とてもDsデウス扶けられずと云。此理聞へず。授を受ぬ者とても、善人ならば何に依てか罸を與ふべき。大明に無私照、大親に私親なしとこそ云なるに、是は吾方さまのもの、是は我心に叶ひたる者など云ふ、私ある底のDsデウスならば皆人間の氣なり。人間の氣を以て天命を量る、甚だ無學の至なり。

右は是、提宇子七段の談義の所詮を擧て論じ畢ぬ。予本より才短かければ、論談の答話、諒〈他ノ一本諒ノ下ニノ字アリ〉以淺近