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我等をなせること、さりとては、かたじけなからざる計ひなり。此等の理を有難と聞得て移らず、提宇子の門徒は、下愚とも々々々云に足らず。さてまた汝右に云、科は相手の輕重による故に、量りなきDsに對して犯せる科なれば、科も量りなき重犯と成て、量ある人間の科送をなすこと叶はずとは不審なり。あまぼし一を食ひし科も、Dsに對して犯せば、量りなき科とならば、何ぞ又Dsに對し、慚愧懺悔の心ありて、悔の八千度身を焦し紅淚に沉まん。善も量りなき善根とならざらんや。蓋しDsデウスは人の善〈一本善ノ字ナシ〉惡をばそだて、人の善をばないがしろにするの主歟。又惡はDsに緣じては增長し、善はDsデウスに對しては滅亡するものか。此二對の內の理、汝必ず其一に居し〈一本シヲレニ作ル〉、如此底の義、逐一に是を論ぜば、天地を紙とし、草木を筆として書とも盡すべからず。愚且く一隅を擧ぐ。智者必ず三隅を反さふせよ。

   六 段

提宇子の云、右に說しDsの御出世のこと、天地開闢より大數五千年を經、セイザルと號する帝王の御宇に、ジユデヤの國の中、ベレンと云在所に於て誕生なり玉ふ。御母をばサンタマリヤ、御父をばジヨゼイフと申す。但し此サンタマリヤもジヨゼイフも、ビルゼンとて一生嫁婚の義無して、懷胎誕生し玉ふ。然を何としてDsの御出世とは是を知ぞと云に、先の此のサンタマリヤは一生不嫁の德