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せる家にて。忽に先祖の跡をはづかしむること。ロ惜とも中々いふ計なし。その身一期の事はさもこそ侍らめ。子孫を思ふ心のなきは頗遠慮なきに侍らずや。是によりて政道のことを指をかるゝ條は千万然べからず。けりやう上裁に應ぜざる人においては。かれら申入事も聞しめし入られざらんが。そのいはれ有ににたり。惣別に御心をやすめらるゝ時は。とが有物もなき物も差別イなかるべし。かつうは又すてばひろはむと中事の侍れば。いかなる野心を存ずる者も出來すべし。かた〴〵然べからず。此前にもすでに御判初有し上は。もし與奪申されば。御代官としてやすきことなど御成敗あらんに何のやうか侍るべき。一方むきのさたは奉行披露にまかせて御敎書に御判をすへられん計也。たとひ又破戒のさた成とも。兩方の訴陳せんことを。たれにても兩三人に仰付られて。批判をせられて。理有方へ付られんもいとやすき事なるべし。一旦聞あやまり又見おとしたることなどあらば。越訴をたてゝ申さんとき。あらためられんこと是又今はじめたる事にあらず。むかしより有來ことなるべし。万機の政なれば。一日二日の懈怠だにも然べからず。それを一かうにうち捨られんことは勿躰なき事成べし。よくよく御思案有べきにや。事多しといへども筆かぎりあれば。大かたはからひ申侍るもの也。

此一册者。後成恩寺殿御作者也。自常德院殿御所望之。則以御筆跡本寫之畢。

  大永七年十月四日

藤房道判


右文明一統記以伊勢貞丈立原萬伊下維磬藏本挍合畢