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侍以下まで。はかなき筆のあとにのみうつしをきたり。世へだたりたる事とおもへど。其時のこゝろうさ。しづみ給しありさままで。かずかずに思ひ出られて。かなしくおぼえければ。

 所せく袖そぬれけるこの海のむかしをかけし波の名殘に

それより陸路を駒の足にまかせていそぎける程に。豐前の國きくの高はまにとまり侍りしに海ちかき所なれば。おりふし波風はげしう。よもすがらうちもふされず侍しかば。

 夢にたに宮古のつてはさもあらて波の音のみきくの高はま

幷の國筑前はこざきの松原。きゝしより見るはなを景氣ことなり。彼社頭は西おもて海邊に向はせ給ふ。戒定惠の箱うづまれてしるしに植られけむ松神さび。申もをろかにぞ侍る。愚詠一首つけまほしく覺えはベりしかど。所のありさまにけをされて。本意なくやみにけり。それより程ちかき博多といふ所に四五日ありけるうちに。そでの湊とことしくいはれたるはいづくぞ尋見ばやと申ければ。あるじこゝろある人にてしるべしけるに。あるじのいはく。今こそしほのさしきて水も少はベれ。常は無下にいふがひなくさぶらふものをとぞ申ける。まことにもろこし舟よせつベき浦ともおぼえず。又营原のおとゞ住給ひし宰府といふ所やちかくさぶらふと問はベりければ。これより三里あまりやあるらむと申す。さらばよき程なりおがみ奉らむと詣でて。こなたかなた名所どもみありきしに。なりひらの色になるてふとよみし染川も其かたなく。水さへかれはてゝ。むかしのあとといふばかり也。思ひ川これもきゝしばかりにはあらねど見所おほかり。彼いせが。おもひ川とよみたりしも。水なくあせなばくちおしかるべきを。絕ずながるゝこそ人の言葉のまこともあ