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とりたてり。つくりなさば此外のことはさもありなむ。是にはいかならむたくみの人もえをよぶまじかりける。程しあれば岩にもやとながめられし。それよりまた舟にのりてくだりけるに。あさがすみふかくたちこもりて。わが友舟もありやなしやとおぼつかなきまでたどるに。霞のうちより鴈の聲かと聞えて。から櫓のをとしたるもおかしきに。船人のこゑたかくひきながめて。何事とえもきゝわかぬうたうたひつゝ漕くるもめざむるこゝちす。霞やう晴渡りて。詠やれば。遙なる沖にうかぶ船も。かもめ千鳥などのやうにちいさくみえて。よそめ計やといへるさることぞかし。その日暮にければ。ある浦に舟をよせて。今夜は月のいでしほに湊こぎいでむと艤ひしけるほどに。自は濱にあがりて。淸き礒まにたゞずみければ。ほどちかく海士のいさりする火みえたり。さてはあのわたりや浦人の里ならんと尋まかりけるに。家もはかしき柱は立て作らず。から櫓かぢなどいふ物をうちわたし。たゞひとへにまばらなる篷をひきかけ。岩のかどを耳にあて。身をも眞砂につけてぞふしにける。かれが身に生れたらましかばいかゞせむ。をのれは住家とおもへば。さまでうからぬにこそ。やう月もすみのぼりて。渺々たる眞砂にひかりあひぬれば。玉をしきたらむやうにみえける。ある人海邊の月といふ事をよめと云。

 をく網の中にしつめる月影ををのかものとやあまの引らむ

とよみて。あまたたびの波まくら楫枕。しほれこし袂ほすまも覺えで。あくがれ行に。もじの關にもなりぬ。さのみ船のうち波の上もたへがたくて。あかまが關にあがりにけり。ある寺に先帝のみかたち幷一門の公卿殿上人。局內