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もる雫のたもとにくはゝりけるをみて。

 夜もすから蓬もりあかす春雨にうきねの袂なをしほるなり

 見もはてぬうきねの夢の行末をさそひてかへる波の音かな

なみぢはるかに分過つゝ。いかゞ有けむ。此ほどのつかれにや。眉のうへおもくなり。心むすぼほれ。たゆたふ舟のうちもいぶせくうるさかりければ。すこしこゝろやすめむと。童ひとりぐしあたりの嶋にあがりて。こなたかなたみありきけれど。稀にも人のゆきかよひける跡さへなかりけり。波のをとのみすごう聞えて。いとゞ袖のうへもしほれがちなるに。むかしいかなるものゝわざにか有けむ。五丈ばかりありける石の面に。月淸下なり雲に集つらなる浪のうへにしらぬ舟路を風にまかせてといふ歌をぞかきつけける。また入もまどひきて。かゝる所のあはれを身にしりけるよといとかなしうをしはかられぬ。其はまにおりゐて手ずさみながらちいさくうつくしき貝どものおほくあるをひろひもちて。やうもとの船にきけり。隣イの國安藝のいつくしまに詣で。一とせ筑紫にくだりしときやどりける坊の主をたづね侍りければ。をとゝし身まかりぬと弟子なりける法しのかたりける。今おもへば其頃七そぢばかりになむみえつる。うらむベきよはひならねど。またかへりこぬ道はいと悲しうなむ。あひみてものがたりなどせし程は六とせにぞなりにける。なに事もはかなき夢とのみ成はてゝ。みなかへらぬむかしと成にけり。彼坊の泉水こゝろをつくし。草木などうへをきたり。

 なき人の手つから植し草木ゆへ庭もまかきもむつましき哉

とよみければ。みな人袖をなむぬらしける。其庭の內にをのづからいと大きなる石あり。こけむし物ふりたるうへにいとおもしろき松ひ