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日のあした。所をまかり立侍に。岡部の里を過て。やがて宇津山にわけ入侍る程。所の名も其興有ておぼえ侍り。曩祖雅經卿ふみわけし昔は夢か宇津の山跡ともみえぬつたの下道と詠侍し事までおもひ出られ侍て。

 昔たにむかしといひしうつの山越てそしのふつたの下みち

 さと過て又こそかゝれうつの山をかへのまくすつたの下道

斯て此國の國府につき侍り。富士もことにさだかに見え侍しかば。

 富士のねの山とし高き齡をも君まちえてや今ちきるらむ

此國の守護上總介範政に御詠を被下侍し次に。

 此宿にかゝること葉の玉しあれはふしのみ雪も光そふらし

十九日のあした。猶此所。又御詠を數首拜見し奉りて。

 ふしのねの月と雪とに明す夜や君かことはの花をそへけむ

 忘れめやくもらぬ秋の朝日影雪ににほへるふしのなかめを

 朝明のふしのねおろし身にしめて思ふ心もたくひやはある

富士の高根に雪のかゝり侍るが。綿ぼうしに似侍るよし。御詠にあそばされ侍しかば。

 雲やそれ雪をいたゝく富士のねもともに老せぬ綿ほうし哉

又御詠を被下侍しほどに。

 都よりはる來てもふし川や行としなみは猶そかさねむ

廿日。淸見寺へ渡御に供奉して於彼寺御詠を拜見し奉りて。

 けふかゝること葉の玉を淸みかた松によせくるみほの浦波

 吹風も猶おさまりてたゝぬ日はけふとそみゆる田子の浦波

やがて府中に還御あり。廿一日早旦に又持參。

 富士のねは名高き山と言のはに君のこしてそ幾千代もへん

又御詠を下され侍しかば。

 數々のことはの花をみやこ人ふしより高く猶やあふかむ

かくて此所をまかり立侍しほどに。私の宿に一首よみをき侍る。

 雪に暮し月にあかして富士のねの面影さらぬ宿やしのはむ

今日又宇津の山をこえ侍るとて。

 立かヘりうつの山ちのつたひきて夕露分るたひ衣かな