たゝめて。侍從のかたへをくるとて。かきそへたる歌。
和歌の浦にかきとゝめたる藻鹽草是を昔のかたみともみよ
あなかしこよこなみかくな濱千鳥一かたならぬ跡を思はゝ
是を見て。じゞうのかへりごと。いととくあり。
終によもあたにはならし藻鹽草かたみをみよの跡に殘せは
まよはまし敎さりせは濱千鳥一かたならぬ跡をそれとも
このかへりごといとおとなしければ。心やすくあはれなるにも。昔の人にきかせたてまつたくて。又うちしほれぬ。大夫のかたはらさらずなれきつるを。ふりすてられなむなごり。あながちにおもひしりて。手ならひしたるをみれば。
はる〳〵と行先遠く慕はれていかにそなたの空をなかめん
とかきつけたる。ものよりことにあはれにて。おなじかみにかきそへつ。
つく〳〵と空ななかめそ戀しくは道遠くともはや歸りこむ
とぞなぐさむる。山よりじゞうのあに
あたにのみ淚はかけし旅衣心の行てたちかへるほと
とは。こといみしながら淚のこぼるゝを。あららかにものいひまぎらはすも。さま〴〵哀なるを。
たちそふそ嬉しかりける旅衣かたみにたのむ親のまもりは《古今離別 をのゝちふるかみちのくのすけにまかりける時にはゝのよめる たらちねのおやのまもりとあひそふる心はかりはせきなとゝめそ》
むすめのこはあまたもなし。たゞひとりにて。此ごろちかきほどの